自分の席まで歩み寄ると、ガタッと椅子を引き、静かに腰を下ろす。
誰もいないこの空間に、ふたりきり。
たったそれだけのことが、嬉しくて。

けれど、この小さな気持ちも、あるいは梓への裏切りになるのかな?
と、そんな風に思うとまた苦くなる心。
自分のことが、一番わからない。

「帰らないのか?」

目線は日誌に預けたまま、手をせわしなく動かしながら声だけで質問を寄越す。

「ちょっとね、休憩」

クスッと笑ってそう返すと、彼はそっけなく「ふーん」と言うだけだった。
その姿を、そっと見つめる。