貴兄は本当に優しい。
鳳皇との関わりを知った時こそ無理矢理あたしを連れて帰ったけど、それ以外は無理に鳳皇の事を忘れさせようとはしなかった。
話題に出す事もなく、あたしが自然に忘れていけるような、そんな空気を作ってくれてた。
そんな優しい貴兄を知っているからこそ、この年密に練り上げられた計画を知って驚いたんだ。
貴兄はあたしと鳳皇が再び繋がった事を許せなかった。
だから中田の誘いに乗ったんだね。
厭らしい笑みを浮かべている中田から視線を外して、再び貴兄を見上げる。
貴兄はさっきと変わらず哀しみを帯びた瞳であたしを見下ろしていた。
その瞳を見るだけでユラユラと視界が揺れ動く。
「………」
──貴兄の瞳が、あたしに告げていた。
何故ついてきたんだと。
何故知ってしまったんだと。
揺れる瞳と強く噛み締められた唇が、そう告げているような気がしてならなかった。
「──凛音。お前のお陰で獅鷹と組めた様なモンなんだぜ?」
「……え?」
それ、どういう意味?
中田の口から放たれた言葉にグッと眉を引き寄せる。
再び中田へ目を向けると、その表情はさっきより遥かに愉しそうに見えた。
余程自分の計画通りに進んでいる事が嬉しいのだろう。
その様子から察するに、あたしが此処に現れた事は中田にとって何ら問題ではないという事だ。
あたしにバレた所で計画がどうにかなる訳ではないと思っているのだろう。
だから余裕でいられる。


