十夜のその問いかけに貴兄は無言で微笑んだ。
「………」
沈黙が流れる。
緊迫した空気の中、耳に届くのは倉庫外で行われている喧嘩の音だけ。
飛び交う罵声に何かがぶつかり合う打撃音。
その音が壁の向こう側から微かに聞こえてくる。
此処とは正反対とも言えるその音に胸が痛いぐらいに締め付けられた。
「獅鷹は何もしない。それはほぼ確信に近かった。そんな時、“ある事”が耳に入った。
中田、それがさっき言っていた事だ。“味方だと思っていた”、いや、思わされたんだ」
「………」
「獅貴王にな」
「え……?」
貴兄に……?
「思わされた、だと?」
「あぁ、そうだ。獅鷹の下の奴がウチの下の奴に言いに来たんだよ。
“獅鷹が狙っているのは中田のバックにいる奴だ”とな」
「なっ……!?」
「そうだよな?獅貴王」
「……あぁ、そうだよ。俺がそう言うように命じた」
驚愕している中田とは反対に余裕の笑みを浮かべている貴兄。
左手も右手同様にポケットへ突っ込むと、体勢を変えるように一度頭を伏せた。
「ここからは俺が話そうか」
貴兄は顔を上げると、ニッと意味ありげに笑って周囲をぐるりと見回した。


