「貴兄……」
……ねぇ、言ってよ。
いつもみたいに『凛音、何言ってんだよ』って言ってよ。
いつもの優しい笑顔向けてよ。
……なんで、
「なんで何も言ってくれないの!?」
なんでそんなに哀しそうな顔であたしを見るの!?
なんで……。
「貴兄!!優!!」
なんで、二人してあたしから目を逸らすの?
嘘だって言ってよ……。
ねぇ、貴兄、優音。
その表情が、無言が、余計に感情を昂らせて。
さっきの話が嘘ではないと、思い知らされる。
「どうして……」
その言葉と共に、涙が一筋、頬を伝った。
話し合うと意気込んでいたのは誰だったのか。
肝心な時に言葉が出てこないんじゃ何の意味もない。
言いたい事は山程あった筈なのに、今はもう何をどう言えばいいのか分からなくなっていた。
頭の中が混乱し過ぎて何も思い浮かばない。
『どうして?』という疑問の言葉しか浮かんでこない。
それしか、もう、浮かばない。
「……へぇ~」
静寂の中、突然聞こえたのはこの場にそぐわない愉しげな声。
直ぐ様その声の方へと視線を向けると、そこには扉に肩を預け、腕組みをしながら愉しそうに微笑んでいる中田がいた。


