何故“凛音”だと直ぐに気付かなかったのか。
それは、中田がその名を口にしなければ“凛音”だと判断出来ない格好をしていたからだ。
凛音の服装。
それは、紺色の作業着。
どこからどう見ても男物のそれは、凛音の体型が分からない程大きく、裾が幾つも折られていた。
ブカブカのズボンはズレ落ちないように縄で絞められ、頭には同じく紺地の帽子。
凛音のトレードマークとも言える長い髪はその帽子の中へと見事に収まっていた。
この姿を見て、凛音だと気付く者は恐らくいない。
それに、襲われた当事者中田と貴音、そして優音に遊大は変装前の凛音の格好を知っていた。
まさか変装をして乗り込んで来るなんて思いもしないだろう。
分からなくて当然、と言えば当然。
「お前、いつの間に……」
驚愕に満ちている中田の表情。
と言うより、信じられないとでも言いたげにしかめられていた。
地面へ沈められた怒りより、さらに上回る驚愕。
凛音が背後にいた事はそれ程までに有り得ない事だった。
『あたしはずっと此処に居たよ。ただ、アンタが気付かなかっただけ』
驚いている中田とは反対に妙に冷静な凛音。
今、此処に居るのはいつもの楽観的な凛音ではなく、どちらかと言えば“リン”そのものだった。
一人称は“あたし”。
だけど、声色は完全に“リン”。
それは意識的になのか。
それとも無意識なのか。
それは凛音本人にしか分からない。
-客観的視点 end-


