信じられない事に十夜の口から発せられたのは了承の言葉。
その応えが返ってくると予想していたのか、貴音はにやりとほくそ笑むと、一瞬だけ視線を逸らした。
「桐谷、“楽しもうぜ”」
再び十夜へと視線を戻した貴音はそう言うや否や地面を思いっきり蹴り上げた。
それを見た十夜は直ぐ様臨戦態勢に入る。
二人の距離が近かったせいなのか、それとも貴音のスピードが速かったせいなのか。
十夜が構えた時にはもう貴音の身体は宙を浮き、回転していた。
貴音の左足が十夜の顔目掛けて振り下ろされる。
だが、その蹴りが十夜の顔に当たる事はなかった。
十夜は見事な反射神経で貴音の蹴りを避け、体勢を整えながら拳を突き出す。
けれど、その拳も貴音に当たらず空を切った。
着地と同時に前転し、十夜から距離を取った貴音は直ぐ様立ち上がり地面を蹴る。
柔軟なその身のこなしは流石総長と言えるだろう。
貴音は拳を強く握りしめ、十夜の顔面目掛けて右ストレートを繰り出した。
十夜は後ろへ上半身を反らし、それを軽々と交わす。
けど、その直後すぐに貴音の左足が十夜の横腹目掛けて迫ってきた。
「……っ!」
その連続攻撃に十夜は対処出来ない。
ドカッと鈍い音が響き渡り、数メートル後方へと蹴り飛ばされる十夜。
そんな十夜に息つく暇もなく迫り来る一つの影。
十夜が顔を上げた瞬間、貴音の拳が視界に映った。
「……チッ」
だが、十夜も総長と呼ばれし者。
そう易々と顔を殴らせはしない。
考えるよりも先に身体が動いていた。
地面へ手をつき、腕のバネを利用して身を翻す。


