勝利の女神が微笑む下で、静を放ち睨み合う二人の男がいた。
互いに歩みを進め、目と鼻の先とも言える距離で視線を交えている。
乱闘が行われていなければ、きっと周りの人間はその光景に息を呑んでいた事だろう。
だが、今は乱闘の真っ只中。
二人を見ている者など誰もいない。
みんな自分の事に精一杯で、二人の姿はおろか、周りの人間すら見えてはいなかった。
けれど、それは乱闘をしている人間にだけではなく、視線を交えている二人にも言えること。
周囲の音などまるで聞こえていないかのような二人の表情。
眉一つ動かさず、ただ一点、目の前の相手にだけ視線を注いでいる。
「──なぁ、桐谷」
そんな中、先に沈黙を破ったのは獅鷹総長である貴音だった。
何百人もの人間が殴り合い罵り合う中で、その声は霞む事なくハッキリと十夜の耳に届いた。
十夜は貴音の口元を真っ直ぐ見据え、次の言葉を静かに待つ。
「“俺等も遊ぶか?”」
貴音の口から放たれたのは思いもよらない言葉だった。
今、この場で使うにはあまりにも軽すぎるその言葉。
まるで本当に遊びに誘っているかの様なその軽い物言いに、十夜が眉を寄せるのは当然の事だと言えるだろう。
十夜の鋭い視線が貴音へ真っ直ぐ突き刺さる。
だが、数秒も経たない内にその視線も無くなり、十夜の口元に笑みが浮かべられた。
「そうだな、“遊ぼうか”」


