鳳皇側の人間が内心焦っている事など全く気付いていない中田と獅鷹幹部は、悠然な面持ちで鳳皇へと近付いていく。


七人は鳳皇幹部から五、六メートル離れた所で立ち止まり、各自各々敵を見据えた。




緊迫した空気の中、微かに聞こえるのは互いの息遣いだけ。


両者には開いた窓から聞こえる小鳥のさえずりさえ聞こえていない。


耳に入ってくるのは、相手から繰り出される音、ただそれだけ。


これから発せられるであろう言葉を一言一句聞き漏らさぬよう息を潜める。





「──驚いたか?」


最初の一言を発したのは余裕の笑みを浮かべている中田だった。


そんな中田の姿に動じた素振り一つも見せない鳳皇メンバー。


此処で狼狽えたら中田を喜ばせるだけ。


それは経験上心得ていた。




獅鷹が敵側に居た事は計算外。


けど、鳳皇はそれぐらいでは動じなかった。



“総長”がいるから。


歴代最強と謳われた“黒皇”、桐谷 十夜が居るから何も心配する事はない。

そう大船に乗った気持ちでいた。


鳳皇メンバーは総長である十夜に絶対的信頼を寄せている。


総長が“変更はない”と言うのなら何も心配はない。計画通りに動く。


それが例え無謀だと思える事であろうとも。