「……でも、十夜の言う通り他の人から聞かされるより十夜本人から聞かされた方が良いと思うよ」


「それは俺もそう思うけど……」


「言うのは構わねぇ。けどタイミングが悪ぃんだよ」


「………」


「まずは今回の事を解決してから言うべきだ。そんなに焦る必要ねぇだろ」


煌はそう吐き捨てると煙草を一本取り出し、軽く溜め息をついて口にくわえる。


「……十夜は怖いんだと思うよ。凛音ちゃんが離れていきそうで」


「壱……」


「……俺、今なら分かる。凛音ちゃんがいなくなった時の十夜のあの表情の意味が」


「………」


「十夜はずっと悩んでたんだよ。一人で、ずっと……。凛音ちゃんが帰ってきてからも……」


そう言った壱は気付かなかった自分を責めているかのように「ハァ…」と重い溜め息を吐き出す。



「……馬鹿が。一人で背負い込んでんじゃねぇよ」


煌もまた後悔していた。


壱同様、十夜の態度がオカシイと気付いていたのに、それは凛音がいなくなったからだと勝手に思い込んでいた。


深く突っ込もうとはしなかった。


凛音が帰ってきてからも十夜の態度が変だと思う事があったのに。



「取り敢えず貴音達と話し合わなきゃ何とも言えねぇ。今言えるのはただ一つ。凛音を外部と接触させない事だ」


「……そうだね。これ以上凛音ちゃんに負担かけさせられない」


煌の言葉に小さく頷いた壱は陽と彼方に目を向けた。


目が合った二人は沈痛な面持ちで頷き、壱と共に遥香へと視線を移す。


「はるるん、明日から此処に来て貰う事になるけど……」


「うん、大丈夫」


遥香もまた真剣な面持ちで頷いた。


丁度その時、タイミングを見計らったかのように開いた寝室の扉。


出てきたのは十夜で、此方へ歩いてくるその姿はまるで何事も無かったかのように普段通りだった。


その表情からは少しの乱れも感じられない。


だが、凛音が座っていた二人掛けソファーへ腰を下ろす時だけは少し表情が曇っていた。



「十夜……」


遥香がソファーへ腰掛けた十夜に声を掛ける。


その呼び掛けに十夜はゆっくりと顔を上げた。



「明日から此処へ来る事についてなんだけど……」


「……あぁ」


「一つだけ、いい……?」



-客観的視点 end-