-客観的視点-



パタン……と静かに閉まった扉。


それを見た十夜はゆっくりと目を閉じた。



眉間には一筋の縦皺。

閉じられたばかりの瞳はまるで何かを堪えているかのように震えていた。


噛み千切らんばかりに強く噛み締められた下唇が十夜の心情を嫌という程物語っている。


苦悶に満ちたその表情にその場にいた全員が言葉を失った。



十夜が目を閉じていたのは時間にするとほんの数秒程。


直ぐに目を開けた十夜はまるで何事もなかったかのように踵を返し、寝室へと消えていく。


十夜がリビングから姿を消した後も暫く静寂は続いたが、それは凄まじい音によって打ち破られた。



寝室から聞こえてきたのは何かを殴ったような打撃音。


それは聞かなくても直ぐに察しがついた。


寝室へと消えた十夜が思いっきり壁を殴ったのだろう。




「──充、下の奴等も混乱してるだろうから上手く説明しといてくれ」



徐に口を開いた煌は表情を変える事なくそう言うと、煙草を一本取り出し吸い始めた。


それを見た充は固い表情のまま「……分かりました」と言って立ち上がり、一礼してリビングから出て行く。


「………」


充が去った後、煌達は互いに目を合わせたが何も言葉を発する事はなく、ただ静寂だけが静かに過ぎていった。