Ri.Night Ⅳ


鼓動が乱れる。どうしようもなく。


後頭部を覆う温もりと重なる額に有り得ない程動揺して。


少し喋れば触れ合うであろう唇に呼吸全てを奪われた。




「────」




十夜から発せられたのは、聞き取れない程小さな声。


けれど、その声は確かにあたしの耳に届いた。





「……ぅ……っ、」


聞いた途端ボロボロと零れ落ちる涙。


それはきっと、言葉のせいだけじゃない。



後頭部から伝わる微かな震え。

耳に届いた切なげな囁き。


それが痛い程心に響いたから。



でも、その声を聞いても、あたしは十夜に何も返事してあげられなかった。


それがこんなにも歯痒くて、苦しくて、哀しくて。



離れていく十夜をただ真っ直ぐ見つめている事しか出来ない。



優音が現れてから初めて見た十夜の瞳。

怖くて直視出来ずにいた漆黒の瞳。



“その瞳”に見覚えがあった。


脳裏に焼き付いて離れない“あの表情”


苦しい過去の思い出。

思い出したくもない辛い思い出。



それは“あたしが十夜を拒絶した時に見せた表情”。


他の誰でもない。あたしがさせてしまった表情。


もう二度と見たくないと思っていたあの表情を、あたしはまたさせてしまった。




……ごめんね、十夜。

ごめんなさい。


信じられなくてごめんなさい。

話し、出来なくてごめんなさい。



戻ってくるから。

絶対戻ってくるから。


その時にまた十夜の想いを聞かせてね。



そう心の中で告げた時にはもう十夜の姿は見えなくなっていた。


一度も逸らされる事のなかった十夜の視線。


それが余計にあたしの涙腺を壊した。




「……凛音」


「……っ、優音、ごめ……っ、ありがとうっ……」



優音の首元に顔を埋め、声を押し殺して泣く。




今度十夜に逢う時、


あたしはその手を握る事が出来るのだろうか──…