「……凛音?」


「……っ、ごめん、起こしちゃった?」


どうやら強く抱き締め過ぎたらしい。


慌てて十夜の胸元から離れると、「離れんな」といつもより少しゆったりした口調で言われ、腰をグイッと引き寄せられた。


「……っ、」


さっきよりも密着した身体にあたしの身体が熱を持つ。


それに連鎖するように速くなる鼓動。

十夜に聞こえてるんじゃないのかと少し焦ったけど、今は離れたくないという気持ちの方が勝ったから動かなかった。



……ずっと、ずっとこうしていたい。

十夜の腕の中にいたい。

抱き締められていたい。


いつもより強いその願望に、心が見えない不安に支配されているのだと感じた。




「……凛音?どうした?」


まだ少し眠たそうな声が頭上から落ちてきて、抱き締めている手の力が緩む。


知らない内にまた強く抱き締めていたらしい。


「十夜……」


遥香さんの事、聞いてみる?


そんな声が脳内で響いた。


「あのね……」


そう発したものの、その先の言葉がなかなか出てこない。


「……凛音?」


黙り込むあたしを不審に思ったのか、十夜が腰に回していた腕の力を緩め、身体を少し離してあたしの顔を覗き込みにきた。


けれど、あたしはそれを拒否するように十夜の胸元へ擦り寄っていく。



……やっぱり駄目だ。

まだ十夜に聞く勇気がない。

十夜と目を合わせる勇気もない。


だから……。


「ごめん、何でもない。あたし先起きるね。皆ももうすぐ来るだろうし、ご飯作らなきゃ。十夜はもう少し寝てていいよ」


息つく暇もなくそう言葉を並べると、素早く十夜から離れた。


「オイ、凛音、」


明らかに様子がおかしいあたしに十夜が気付かない訳がなく、直ぐ様手を引かれる。


「……ごめん、トイレ行きたいから離して」


そう言うと、十夜はすんなりと手を離してくれた。


「……トイレ行ったら直ぐに戻ってこい」


部屋を出る間際そう言われたけど、あたしは振り返りもせず無言で部屋を後にした。