「……っ、」


何か言わなきゃ。

そう思うのに、何も言葉が出てこない。


まるで心の内を全て見透かしているようなその漆黒の瞳に何も言えなくなる。


口を開けば言ってはいけない事まで言ってしまいそうな気がして……。


全ては心の中に生まれた十夜への疑心のせい。


信じたいのに信じられない。

疑いたくないのに疑ってしまう。


それがこんなにも苦しくて、辛くて、腹立たしくて。


信じなきゃと思っているのにどうしても不安な気持ちの方が勝ってしまう。



「……凛音?お前、なんで泣いてんだよ」



──信じたいのに信じられないのは、あたしの心が弱いから……?



「凛音、どうした?」


十夜の右手があたしの左頬に向かって伸ばされる。


「なんで泣いてる?」


そう言って、そっと優しく触れた手。


「泣いて、る……?」


目の下をなぞるように滑っていくその指に、漸く自分が泣いている事に気付いた。


「……ゃ、これは……、」


……なんで。

なんで涙なんか……。


「凛音、」


曇っていく十夜の表情に焦りが募る。


「ち、違うの!無事に帰ってきたから安心して……っ」


取り敢えず何でもいいからと思い吐き出した言葉は、さっき壱さんに言った言葉と同じ言葉だった。


「………」


十夜はその返答に納得がいかないのか、真っ直ぐな瞳であたしを探っている。


──駄目だ。

泣いちゃ駄目だ。


泣いたら──


「……ぅ……っ、」