天敵である階段を無事通過し、残りの道のりも気を抜かずに歩いていく。
此処で転んだら元も子もない。
絶対に転ばないようにしなきゃ。
隣では変に気合いが入っているあたしを見て充くんが不思議そうに首を傾げていた。
そりゃそうだよね。あたしの歩き方どこからどう見ても変だもん。
さっきの階段なんか特に。
後でちゃんと説明しておこう。
じゃないと変な子だと思われるし。
そんな事を考えている内に部屋の前に着いた。
両手が塞がれて開けられないだろうから、と前以て開けておいたドア。
そのドアまであと数歩と迫った時、
『────』
え?
室内から聞こえてきた声にピタリと足が止まった。
「凛音さん?」
一歩後ろを歩いていた充くんが不思議そうな顔で覗き込んでくる。
けれど、充くんの声も視線も、まるで壁に隔たれているように遠く感じて、何も返答出来なかった。
たった今耳に入ってきた言葉に五感全てが囚われて、瞬きの一つさえ出来ない。
目の前は真っ白。
お盆を持つ両手の感触すら分からない。
いや、足が地に着いているのかも分からない。
ただ智広くんの言葉だけが頭の中で何度も何度も反芻されていて。
視界が、激しく左右に揺れ動く。


