「ホラ!カレー作っとくから早く行って!煌と壱さん待ってるから!」
荒々しい口調でそう言うと十夜の胸板を強く押し、甘い香りの中から素早く抜け出した。
もう甘さも何もあったもんじゃない。
っていうか、カレーが食べたいんなら普通に言ってよね!
抱き締めたりなんかして無駄にドキドキしちゃったじゃない!
「オイ」
「はーい、いってらっしゃーい。怪我には気を付けてねー」
何か言いかけたけど満面の笑みでスルー。
ヒラヒラと手を振り、早く行けと言わんばかりに肩を押す。
そんなあたしの態度に十夜は不満げに顔をしかめていたが、その後、一向に嘘臭い笑顔を崩そうとしないあたしに降参したのか、「行ってくる」とだけ言って部屋から出ていった。
パタン、と小さな音を立てて締まるドア。
「行っちゃった……」
急に訪れた静寂に寂しさが集い、張り付けた笑顔が一瞬で消え去る。
……やっぱり一人は寂しい。
無理矢理追い出しといてなんだけど、やっぱり居なくなると寂しい。
静けさの漂うリビングを見て余計にそう感じた。
「カレーの前にお風呂入ろう」
無意味に呟く独り言は寂しさを紛らす為のもの。
「……皆、怪我しないでね」
ソファーに座るみんなを思い出して、まるでそこに居るかのように小さく呟いた。
「十夜遅ぇよ!……って何かあったのか?」
「……何も」
“カレー食いたい”
それが十夜の虚言だったなんて、この時のあたしには知る由もなかった。


