「十夜、」
鼻孔を擽る大好きな十夜の香り。
甘さを含んだその魅惑的な香りは他のどの香りよりも脳を刺激して。
「凛音」
自然と力が抜けていく。
「十夜」
「今日の夜──」
今日の夜?
「……いや、」
「ちょ、言いかけて止めないでよ。気になるじゃん!」
寸止めとか一番気になるし!
預けた身体はそのままにして、ゆっくりと頭を上げれば黒髪から覗く漆黒の瞳と目が合った。
ゆらゆらと静かに揺れ動く黒い双眸。
いつもより微弱なその光に目を奪われて、直ぐそこまで出かかった言葉が喉元でクッと留まった。
コクリと鳴る喉奥。
まるで捕らわれたかのように揺れるその瞳から目が離せない。
「……夜、」
夜……?
何かあるの?
「カレー食いたい」
「………は?」
え?今なんて言った?
カレー?カレーって言ったよね?
聞き間違いなんかじゃないよね?確かに言ったよね?
「……え、それだけ?」
「あぁ」
……な、
「なんじゃそりゃー!!」
「……うるせぇ」
そりゃ煩くもなるでしょうよ!
何だったの!?今の意味深な視線はっ!意味深な間はっ!
何かあるのかと思ったじゃない!!
憂いを帯びた視線から一変し、心底迷惑そうに眉を寄せる十夜に軽い殺意が芽生える。
「もう!カレーごときで深刻そうな顔しないでよね!」
「……してねぇ」
「してた!」
「してねぇ」
「してたっ!」
ってなんで抱き締められたままこんな言い合いしなきゃなんないのよ、あたし達!


