その声と共に振り上げられた男の右手。
男の手にはバタフライナイフが握られていて。
その剣先は迷い無く、一直線に十夜に向かって振り上げられた。
『十夜!!』
止めようと手を伸ばすけど間に合わない。
──逃げて。
逃げて十夜っ……!!
「……っ、」
『十夜!!』
十夜の身体が微かに右に揺れ、音も無くピタリと止まった両者の身体。
……嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ!!
『十夜!!』
視界に映るその光景に、有り得ない程声が震えた。
腹部へ消えた剣先。
歪む横顔。
男の右手首を掴む十夜の両手。
その光景は一番見たくないと願っていたもので。
『う、そだ……』
目の前で起きた衝撃的な光景にフッと足の力が抜け落ちた。
崩れるようにその場へ座り込む。
「十夜!!」
「嘘だろ!?十夜!!」
後方から響く陽や彼方の叫声。
それはこの狭い空間に嫌という程良く響いた。
「……チッ」
「リンくん!とぉ──!」
「もう此処に用はない」
遥香さんの叫声を遮ったのはキョウの声。
『なっ!?』
「クソッ!」
その声が耳に届いたのと同時に、突如目前へと巨大な白煙が迫ってきた。
それはみるみる内に天井へと舞い上がっていく。
嘘、でしょ……?
十夜に気を取られていて全く気付かなかった。
「チッ。煙幕弾か」
「彼方!陽!出口を塞げ!!奴等を逃がすな!!」
まさか煙幕弾を投げられていたなんて。


