「リン」
「……もう大丈夫」
ゆっくりと身体を起こし、二人に支えて貰いながら立ち上がると、今の状況を確かめる為後ろを振り返った。
狭い店内の一番奥で壁に背を向けているのは五人の男女。
一人の男は遥香さんにナイフを突き付け、二人の男は葵さんの両腕を掴み、拘束している。
ナイフを突きつけている男は二、三メートル先にいる十夜を睨みつけていて、その十夜の足元には敗者であるカイという男が蹲っていた。
『……アイツ、一発ぶん殴ってやる』
ズキズキと痛むこめかみにそっと指先を添えれば、そこはぷっくりと膨れ上がっていて。
自分が触れたにも関わらず『痛っ!』と声を上げて顔を顰めた。
「睨んでねぇで応えろよ」
「………」
「だんまりか?」
十夜が言葉を発する度ピリピリとした空気が室内に充満していく。
こんな十夜、見た事ない。
いつもはもっと無表情で淡々と相手を追い詰めていくのに、今日の十夜は違う。
静の中に宿している光はいつもより色濃く変化し、それを惜しげも無く放っている。
「応えろっつってんだよ!」
苛立ちを表すその口調はいつもより荒々しい。
こんなにも怒りを露にした十夜、初めて見たかもしれない。
「……アイツがあんなにもキレたの、初めてかもな」
安易に言葉を発せない雰囲気の中、恐れもせずポツリとそう呟いたのは煌。
小さなその呟きには驚愕と困惑が入り交じっていて、その声色に自然と顔を上げた。


