男はテーブルに腰掛けたまま一度たりとも動いておらず、ただ愉しげに話し掛けるだけ。
「そこに居る雷さんとやらは軽ーく後ろから殴っただけだよ。軽ーくな。だから心配は無用だ」
荒々しい呼吸を繰り返すあたしを見て、ゆるりと口角を引き上げる男。
その表情は明らかにこの状況を愉しんでいてて、無性にイラついた。
男の思惑通りに進められているのは決してあたしの気のせいなんかではないだろう。
『お前等は誰だ』
「……さぁ?誰だと思う?」
『答えろ』
あたしの神経を逆撫でるようなその物言いに声色が徐々に低くなっていく。
けれど、男はそんな事を気にも留めずにふざけた口調でこう言い放った。
「お前こそ何者だ?“此処”に来るぐらいだから下っ端ではないな。だが、鳳皇の幹部でもない。……獅鷹の人間か?」
『……っ』
今、なんて言った……?
何故コイツ等が獅鷹の事を知ってる?
鳳皇と獅鷹が同盟を組んだ事は今日の暴走で公表する予定だった。
暴走までは他言無用だった筈。
それなのに知っているという事は……。
間違いない。
コイツ等は“D”だ。
獅鷹の事を知っているのは奴等しかいない。
『……そうだって言ったら?』
「……へぇ。やっぱり獅鷹の人間だったのか。カイ、この顔に見覚えあるか?」
「え~微妙~。確か似てる奴は居たと思うけど、データではもっと茶髪だったような気がする。……お前、髪染めた?」
まるで長年の友達に喋り掛けるような口調でそう問い掛けてきた男に思わず眉を潜める。


