彼方に掛かってきた電話。

それはビルに隠れている筈の遥香からだった。


『彼方くん!?どうしよう!見つかっちゃった!』


彼方が通話ボタンを押した途端、通話口から聞こえてきたのは遥香の焦り混じりの声。


その声に再び緊迫した空気が舞い戻ってきた。



『十夜!遥香さんはあたしと違って喧嘩出来ないんだよ!?それがどういう事か分かってる!?怪我しないように気をつけるから!お願い!!』


「……っ」


凛音の捲くし立てるような説得に十夜の表情が険しく歪む。


「十夜!」


それに加え、隣からは彼方の急かすような呼び掛け。


二人同時に迫られ、十夜は更に窮地へと追い込まれた。


強く握られた拳には手汗が滲み、噛み締めた奥歯がぎりっと鈍い音を立てる。



これが下の者なら迷いなく指示した。


けど、凛音となると話は別だ。


そんな危険な事はさせられない。



十夜の胸中で激しく渦巻く焦りや混乱。


そして、凛音の身に危険が及ぶかもしれないという不安。

それが十夜の決断を妨げていた。



「十夜、凛音に行かせろ」


そんな時、十夜の思考を遮ったのは煌の声。