ちぇっと唇を尖らせ、再度彼方に手を差し出す。


すると、彼方は条件反射とでも言うようにポンッと手のひらの上に握り拳乗せてきた。


「……あ、思わず」


……殴っていいですか?


まるでお手をするかのようなその仕種に直ぐ様右手を構えると、彼方は慌てて手を引っ込めた。


「ごめん、ごめんってば!っていうかその手は何!?」


差し出した手に視線を落とす彼方は本当に意味が分かっていないようで。

仕方無く口に出して問い掛けた。


「スペアの眼鏡貸して」


「スペア?え?眼鏡かけるの?」


「うん。インテリには必要不可欠」


「あ、にゃ~るほど」


納得、と手を叩いた陽はやっぱり可愛い。


ちょっと待ってて、とキッチンの隣にある棚の引き出しから長方形の箱を取り出してきた彼方はそれをあたしに手渡した。


ありがと、とお礼を言って受け取り、蓋を開ける。


「わー!いっぱいある!」


飛び込んできたのは色んな種類の眼鏡。


いつも彼方がかけているような縁なしのもあれば、黒やら赤やらカラフルな縁あり眼鏡も沢山あった。中には何でこんな変な形の?っていうのもある。


持ち主に「何でこんな変なの持ってんの?」と聞くと、「ウケ狙い」と言われた。馬鹿だ。


あたしは無難な縁なし眼鏡を手に取り、かけてみた。


どう?と聞く前に「凛音ちゃん、可愛い」と褒めてくれる壱さん。


そのキラキラスマイルに悩殺されながらいそいそと蓋を閉める。