あたしからそんな言葉を返されるとは思っていなかったのか、十夜の目が僅かに見開いた。

その表情にフッと笑みを零し、一歩前へと出る。


「り、凛音?」


「オイ……!」


戸惑いを含んだ陽と煌の呼び掛けに、騒いでいた皆が一斉に何事かと見上げてきた。


中にはあたし達の会話を聞いていた人もいたのだろう。


戸惑いと困惑に揺れる視線が真っ直ぐ突き刺さってくる。



何百人もの人間が集まるこの空間で、今、動いているのはあたしだけ。


集まる視線を一身に受けながら、一歩、二歩とゆっくり階段を下りていく。


静寂が広がる中、コツン、コツンとリズムを刻む靴音。


それはまるでこの場の支配者のように感じて。


自然と表情が固くなっていくのが分かった。



目の前に広がる“鳳皇”という名の広大な海。


それを真っ直ぐ見据えながら静かに口を開く。




「あたしは十夜の望む“凰妃”にはなれない」



階段を下りながらそう口にしたあたしの声色は、先程とは程遠い低くて力強い声。


その声色に驚いているのか。

それとも今発したばかりの台詞に驚いているのか。


どちらかは分からないけど、視界に映る皆の表情は驚愕に満ちていた。


その表情を捉えながら更に歩みを進める。