「十夜……!」


笑顔のあたしとは反対に何故か沈んでいる十夜。


目が合った途端、ハァと重い溜め息を吐き出された。


「十夜?」


覗き込むようにして見上げると、


「凛音ちゃんに嫌われたと思った?」


背後からクスクスと遥香さんの笑い声が聞こえた。


振り返ると、遥香さんがクスクスと笑いながら此方へと歩いてきていて。

あたし達から数歩離れた所で立ち止まり、十夜に意味深な笑みを向ける。


「十夜にも可愛い所があったんだね」


「……うっせぇ」


遥香さんの言葉にフイッと顔を背ける十夜。

それを見て遥香さんはまたクスリと笑う。



「……十夜」

「分かってる」

「……ならいいけど」


主語がなくても会話が成り立つ二人。

正直羨ましい。

あたしと十夜では絶対に有り得ない。

「遥」


窓が開く音がして振り返れば、煌が助手席の窓から顔を覗かせていて。


さっきまで後部座席に居たのにいつの間に助手席へ移動したのだろうか。


「もう絡まれんじゃねぇぞ?」


「そんな事言われても……」


「だな。まぁ何かあったら電話しろよ」


「……うん、ありがとう」


片手を上げ、ヒラヒラと振る煌に微笑みながら頷く遥香さん。


ちょうどその時、タイミングを見計らったかのようにガラッと後部座席のドアが開いた。


「はるるんまたなー!」

「遥香ちゃんバイバーイ!」

「遥香ちゃん、またね」


身体を前屈みにし、遥香さんに向かって手を振る陽と彼方。


壱さんも座席に凭れ、後部座席のドアから小さく手を振っていた。


「うん、またね。バイバイ」


無邪気に笑う三人につられてクスクスと笑う遥香さん。