「……っ」
窓に頭を預け、移りゆく景色をボーッと眺めていると、不意に頭に大きな手が乗せられた。
「壱、さん……?」
振り向けば、いつもと変わらない優しい笑顔があたしを見ていて。
けれど、その笑顔を見れたのはほんの一瞬だけだった。
運転中だからか、すぐに正面を向いた壱さん。
けど、頭に乗った手はそのままで、数回優しく撫でた後、その手は元の位置へと戻っていった。
壱さん……。
何も言わずに頭を撫でてくれたのはきっと壱さんの優しさ。
壱さんは鋭いから、あたしの考えてることなんてお見通しなんだ。
助手席に乗りたいと言った時も、そして今も、壱さんはあたしの気持ちを汲んでくれた。
口数は決して多い方ではないけれど、向けてくれるその優しい笑顔にいつも助けられる。
壱さんが笑ってくれるだけで癒されるんだ。
「バーカ」
「ぅわっ……!」
突然首を絞められて身体がのけ反る。
「ちょ、苦しい……!」
降参の意味を込めて巻きついている腕をバシバシ叩くと、
「なんだ、弱ぇな。もっと修行積めよ」
ハッと乾いた笑いが耳元で聞こえ、するりと腕が外れた。
「馬鹿煌!何すんのよ!?」
「煌ばっかズルィー。りっちゃん、俺もぎゅー」
「ちょ……!寄ってこないで!」
「彼方、重てぇ!!」
急に賑やかになった車内。
遥香さん達がいる事も忘れていつものように騒ぎ出す。
首を締められた時はムカついたけど、後々考えればあれは煌なりに励ましてくれたんだと思う。
煌は鋭いから。
ううん、煌だけじゃない。彼方も陽も。
みんな気を使ってくれた。
優しすぎるよ。ホント。


