──ガラッ。


ドアを閉める直前に聞こえたのはドアをスライドする音と十夜の香り。


直ぐ隣に十夜が居る。

それだけで緩んだ心にまた緊張が走る。


振り向きたいけど振り向けない。


さっき大丈夫だと思ったばかりなのにもう揺らいでいて。

この歯痒い感情にどうしようもない腹立たしさを感じた。



“嫉妬”と言う名の醜い感情。

“不安”と言う名の弱い感情。


“強い心”


恋愛初心者のあたしにとってそれは高すぎる壁だった。




「壱いーなー。りっちゃんー俺んとこ来ようよー」


「ダーメ。彼方の隣とか凛音ちゃんが可哀想。ホラ、凛音ちゃん、早く乗らないと彼方に引き摺り込まれるよ?」


「え、それはヤダッ!」


壱さんの言葉に足が勝手に動き出す。


十夜の香りはいつの間にか消えていて。

隣から彼方の声が聞こえたところをみると十夜は既に車に乗り込んだのだろう。



運転手は壱さん。

助手席にはあたし。


二列目には右から彼方、陽、煌。

三列目は十夜、遥香さん、葵さん。



「遥香、送って貰えて良かったね!」


広いようで狭い車内。

嫌でも葵さん達の会話が聞こえてくる。