顔を上げれば十夜の哀しそうな表情が映って。


「十夜?」


どうしてそんな顔しているんだろうと不思議に思った。


こんな公衆の面前でそんな表情を晒すなんて今までの十夜なら有り得ない。


何でそんな顔をしてるの……?



「……煌、陽、先行っとけ」


「……分かった」


十夜はあたしを見つめたまま煌と陽にそう言うと、言い終わったと同時にあたしの手を強く引た。


「十夜!?」


本屋の隣にあるビルへと足早に入っていく十夜。


「十夜?どこに──」



薄暗いビルの中。

幾つかの扉の上には色んな名前が書いた看板があり、電気はついていない。


このビルにはスナックやBARしか入っていないのだろう。


だから昼間は人気(ヒトケ)がないんだ。


「とお──っ」


角を曲がった所で引かれていた手を更に強く引かれ、身体が前へと倒れていく。


瞬間、大好きな温もりに包まれて。


まさか抱き締められるなんて思ってもなかったあたしは、何の抵抗も出来ないまま十夜に身を委ねることしか出来なかった。


「……十夜?」


「悪い」


「え?」


「不安にさせてごめん」


「………」


十夜の声が耳元で不安げに揺れる。

吐き出すようなその声に今度こそ息が詰まった。


「アイツとは何もない。だからそんな顔すんな」


「……そんな、顔?」


そんな顔って……?


あたし、そんなに顔に出てた?

十夜がこんなに謝る程不安そうな顔してたの?