「……凛音、離れろ」


「……っ、ヤダッ!!」


背後に回った優音があたしの両肩を掴み、引き離そうとする。


その手から逃れようと、貴兄の服を掴んだまま身体を捩らせた。



「凛音、」


「……っなんで!」



あたしが、鳳皇と逢ったから?

だから喧嘩するの?


あたしが鳳皇と決別したら貴兄はやめてくれる……?




“逃げるなら好きなだけ逃げろよ。何処までも追いかけてやる”




“あの時”十夜に言われた言葉が、閃光のように脳内を駆け抜けていく。



十夜……。


あたしが離れても、きっと十夜は追いかけてくれる。


けど、それを見た貴兄もあたしに近寄らせないようにする為、手を出そうとする。



……もう、分からない。


どうする事が一番良策なのか、


もう、分からないよ。



そう心の中で呟いた時、



「……凛音、貴兄から手を離せ」


背後から思いもよらない人物の声がした。




この、声は──



恐る恐る後ろを振り返ると、



「遊、大……?」



そこに居たのは、あたしの気持ちを知る唯一の人だった。



「……っ、」


遊大を見た瞬間、一気に感情が膨れ上がった。



なんで……。



「遊大、なんで!?」



あたしの想いを知っていて尚、鳳皇を潰しに行こうとする遊大に負の感情が芽生える。


心の何処かで思っていた。


十夜への想いを知っている遊大は例え何があったとしても自分の味方だって。


鳳皇の事を良く思っていなくても、喧嘩なんて吹っ掛けたりしないって。


そう、勝手に思い込んでいた。