「慧、誰でもいい、一人此処へ来るよう言ってくれ。詳しくは後で話す」


早口でそう言った貴兄は携帯を素早く切り、振り返った。

交わる視線。


真っ直ぐ見据えるその揺らぎない瞳に身体が無意識に震える。


怒りも優しさも感じさせないその瞳は無に等しく、感情を読み取ることが出来ない。


今、目の前に立っているのは、まさしく獅鷹総長。


“獅貴王”だった。



「……凛音、お前は此処で大人しく待ってろ」


「……え?」



此処、で?



「今、外に出ると危ない」


「……っヤダ!!」


「凛音」


「……貴兄、お願いだから鳳皇と争うの止めて!お願い!お願い貴兄!」


「……凛音、立て」


「貴兄!!」



あたしの言葉を無視し、荒々しくあたしの右腕を引き上げる。


中途半端に立ち上がったあたしは、膝立ちのまま懇願するように貴兄の膝へすがり付いた。


「貴兄!!」


何で無視するの!?


構う気はないとでも言うようにあたしの両脇に手を差し込んだ貴兄は、無言のままあたしを持ち上げた。


無理矢理立たされたあたしは、離れないと言わんばかりに貴兄の服を強く握りしめる。



……離さない。離すもんか。

離したら貴兄は鳳皇へ行ってしまう。


喧嘩なんかさせない。


絶対、させない。


させたくない!



「優」


頭上から降ってきた貴兄の声にピクリと肩が揺れる。


優音を呼ぶその声は、普段の優しさの一欠片もない。



……貴兄、どうしてあたしを見ないの?

どうして見てくれないの?


視線を合わせようとしない貴兄にじわりと涙が浮かび上がる。