貴兄……?


怒りが混じったその声にゆっくりと振り向くと、ソファーの近くにいた筈の貴兄が目の前に立っていた。


中田の肩を組み、鋭い視線で見下ろしている。


その瞳からは怒りが見て取れた。




「……フッ。分かったよ。シスコンのお兄様は恐ぇな」


流石に怒りを露にしている貴兄には楯突こうと思わないのか、中田は素直にあたしから離れると怠そうに立ち上がった。



その時。



「……やっとお出ましか?」



微妙な空気が漂う室内に、聞き慣れた機械音が鳴り響いた。


その音に中田が愉しそうに笑みを零す。


けたたましく鳴り響く着信音。


それはまるで“始まりの合図”とでも言うように盛大に響いていた。




「──もしもし」


その音を止めたのは、携帯電話の持ち主、貴兄。


張り詰めた空気の中、貴兄の口からポツリと“幕開け”の言葉が落とされる。



「──分かった」



……あぁ、幕が開けてしまった。