「──凛音」


大好きな声があたしの名前を優しく紡ぐ。


それだけで何とも言えない感情が胸の奥からじんわりと込み上げてきた。


静かに。

けれど確実に早くなっていく鼓動。


それが“現実”だと教えてくれた。


今起こっている“現実”なのだと……。



「……何で泣いてんだよ」


「だって……っ」


気が付いた時にはもう涙が溢れていて。


「……っ」


零れる涙が邪魔をして、その先の言葉がなかなか出てきてくれない。


伝えたい言葉は数え切れない程沢山あるのに、それは言葉ではなく涙へと姿を変えた。


「十夜……」


胸中で渦巻く歯痒い想い。


それでも涙は止まる事なく、ポタポタと膝の上へ落ちていく。


「……泣くな。お前に泣かれると困るって前言っただろ」


「……っ、ごめ……」


俯いているあたしの頭にぽすんと乗せられた大きな手が、慰めるように優しく動く。


手のひらから伝わる十夜の温もり。


その温もりにまたじわりと涙が込み上げてくる。


「悪い。急かしすぎたな」


「とぉ……」


「お前の気持ちが落ち着くまで待つから」


「十夜、ちが……」


違う。違うの。


嬉しかっただけ。

ただ嬉しかっただけなの。


長い間心の内に秘めてきた十夜への想い。


好きだと言われても応えられなかった十夜への想い。


その想いを伝えられるのはまだずっと先の事だと思ってた。


まさか、まさかこんなにも早く十夜に伝えられるなんて思わなかったの。


口に出せると思うと嬉しくて。

本当に本当に嬉しくて。


だから、涙が溢れた。



「気持ちの整理が出来たら──」


「好きっ……」


「……っ」


「ずっと……ずっと好きだったっ……」