「……ふふっ」


視界に映る十夜を見て思わず笑ってしまった。


「何だよ」


いきなり笑い出したあたしを見て、十夜が不満げに眉を引き寄せる。


当然だろう。


十夜は笑われるような事なんて一切していないのだから。


けど、あたしにとったら十分笑える要素があった。



「今、十夜と初めて逢った時の事を思い出したの」


そう、笑える要素。


それは満月をバックにあたしを見下ろす十夜の姿。


“あの時”もそうだった。



『──今すぐ消えろ』



そう言ったあの時、十夜は今みたいに月をバックにしながら“無に近い表情”で“冷たい言葉”を吐いた。


「十夜、あの時あたしになんて言ったか覚えてる?『今すぐ消えろ』って言ったんだよ?あたしあの時、十夜の事何て失礼な奴なんだって思ったよ」


責めるように少しだけ口調を荒らげてそう言うと、十夜は気まずそうに視線を逸らし、「あれは……」と小さく呟いた。


叱られた子供のようにシュンと肩を落とす十夜からあの時の面影なんて微塵も感じられない。


「分かってるよ」


そんな十夜を見てまたふふっと小さく笑う。


分かってる。

分かってるよ。


今なら十夜が言いたかった事が分かる。


十夜はあの時、あたしを公園から遠ざけようとしていた。


十夜は不器用だからきっとあんな言い方しか出来なかったんだと思う。


十夜は十夜なりにあたしを公園から遠ざけようとしてくれていたんだ。








「今は?」


「え?」


「今はどう思ってる?」


「………っ」


不意に投げ掛けられたその言葉に動揺が走る。


そっと顔を上げると、そっぽを向いていた筈の十夜と目が合って。

熱を帯びたその瞳にそのまま囚われてしまった。


あたしだけに注がれる熱い視線。


それは“返事”が欲しいと、そう言ってるような気がした。