「まぁ獅鷹は宮原を尾行するまでには至ってなかったけどな」
「………」
「だから、お前の兄貴は宮原が獅鷹へ向かった事を知らなかった。
知っていたら途中で止めていた筈だ。お前に逢わせる訳にはいかないからな」
そうだろう?とでも言うように少しだけ首を傾けた中田は、頬を緩ませながら再び口を開いた。
「呼び出しに応じたお前の兄貴は俺の元に来た時にはもう知ってたよ」
「……え?」
「 『さっき宮原が獅鷹に来た』。そう言ったからな」
「……っ、まさか──!」
……まさか、あの時!?
貴兄が中田の元へ行ったのは、あたしが慎に陽の事を聞き出した、あの時。
あの時、中田の元へ行ったんだ。
昨日の事の様に思い出せるその光景に思わず唇を噛み締めた。
──そうだ。
今思えば、あの時の貴兄の行動は変だった。
だってあの時、貴兄は幹部室に入ったと思ったらすぐに下りてきた。
時間にすると約数分程しかない。
やっぱり、あの時貴兄は透に陽の事を聞いてたんだ。
訪ねてきた男の特徴を聞き、その男が陽だと気付いた。
きっとその時だ。
下の人が中田に拉致られたと連絡が入ったのは。
『ちょっと急用が出来たから、出てくる。お前は遊んでろ』
出て行く時、貴兄は笑っていた。
いつも通りの優しい笑顔だった。
ポンポンと頭を撫でてくれる仕種もいつもと変わらなかった。
──ねぇ、貴兄。
あの時、無理して笑ってくれてたんでしょう?
きっと……そうだよね。
仲間を拉致られたんだ。
笑う余裕なんて無かったはず。
それなのに貴兄は笑っていた。
それは全て、あたしにバレないようにする為。
ねぇ、貴兄、そうなんでしょう?


