「皆、上がって。んで、そこのドアを開けたらリビングだから」


そう言うと、皆は「お邪魔しまーす」と言って靴を脱ぎ、言われた通りにドアに向かって歩いていく。


あたしはと言うと。


「十夜?どうしたの?」


一歩も動こうとしない十夜にそう問いかけ、下から覗き込むように見上げた。



「……お前は」


「うん?」


「此処で育ったんだな」


十夜?


ずっと上を見上げたままの十夜。


特に何処を見ている訳でもなく、ただボーッと家の中を見つめている。


「十夜……」


無表情にも見えるその横顔には、身近な者にしか分からない程の小さな笑み。


十夜が今何を想っているのか分からないのに、その笑みを見て何だか嬉しく思ってしまった。


十夜と同じように吹き抜けになっている玄関ホールを見上げる。



「……あたしはこの家で皆に支えて貰いながら育ったの。パパやママ、貴兄と優音、そして嵐ちゃん達。皆で怒ったり泣いたり笑ったりして共に過ごしてきた」


「………」


「想い出が沢山詰まった家」


「………」


「これからはその想い出の中に十夜達との想い出が入っていくの」


その言葉で十夜の視線があたしに向けられた。

あたしも十夜を見上げる。


「あたし達は離れないんでしょ?だったら十夜達もこの家の想い出の中に刻まれていくよ」


ずっと一緒に居るってそういう事だから、と言って目を細め、ニッと笑ってみせる。