右手首には十夜の右手。


それがあたしを引き寄せた事を物語っていた。



「……へぇ~」



突如聞こえてきたのは貴兄の愉しげな声。


その声に十夜の視線がスッと左方へ逸らされる。


慌てて体勢を立て直し貴兄へ視線を移すと、貴兄は十夜を見ながら何故かニヤニヤと意味ありげに笑っていた。


まるで何か獲物を見つけたかのような、貴兄にしては珍しい少し意地悪な笑み。


「まぁ入れよ」


貴兄は特に何を言うわけでもなく、笑みを零したまま踵を返す。


玄関前であたし達を見ていた優音達は、貴兄が戻ってきたのを見て家の中へと入っていった。



「十夜?家に入ろう」


未だ顔を逸らしたままの十夜。


掴まれている腕をクイッと引くと、やっとこっちを向いてくれた。


けど、その表情はどちらかというと曇っていて、気軽に話しかけられる雰囲気ではない。


下手に刺激しない方がいいもしれない。


そう思ったあたしは無言で十夜の腕を引いた。


十夜は抵抗せず素直についてくる。


玄関を開けると「ようこそ我が家へ~」と言って皆を家の中へと招き入れる。


「うっわー!すっげぇ広い玄関!」


「ホントだ、広いねー」


「ここ、部屋じゃねぇの?」


「りっちゃん、俺、玄関にこんな大きな観葉植物あんの初めて見たよ」


中へ入るなり各自各々の感想を述べるみんなは何故か感嘆の溜め息。


「はは、大袈裟な」


玄関を閉めながら苦笑していると、一人無言で家の中を見ている十夜の姿が目に入った。