振り返った先には動き出した筈のタクシーが止まっていて、後部席の窓から中田が顔を覗かせていた。


「桐谷」


さっきより小さく。


けれど、確かに中田は十夜を呼んでいた。


真っ直ぐ十夜にだけ視線を注いでいる。



「待ってろ」


十夜はそう言うと、ポンッとあたしの頭に手を乗せて歩き出した。


少しずつ遠ざかっていく十夜の後ろ姿。


それをあたしだけではなく、皆も無言で見ていた。



タクシーに近付いた十夜が前屈みになり、中田と目線を合わせる。


二人が何かを話しているのは口元の動きで分かるけど、距離が離れすぎていて内容までは聞こえない。


一体何の話をしているのだろう?


そう思った時、十夜が身体を起こし、視線を落としたままこちらへと歩いてきた。


十夜の後方では再びタクシーが動き始める。


少しずつ遠ざかっていくタクシー。


十夜は未だ俯いたままで、何かを考えているように見えた。


その姿を見て不安が募る。


「十夜……」


中田に何か言われたのだろうか。



「──行くぞ」


手を伸ばせば届きそうな距離まで近付いた時、十夜はようやく顔を上げ、あたしを見た。


顔を上げた十夜はいつもと変わらず無表情で。


それを見た煌達は何も言わずに歩き出した。


「十夜……」