中田は彼方と壱さんに支えながら歩いていき、タクシーに乗り込む。


おじさんも同様に運転席に乗り込むと、助手席と後部座席の窓を開けてくれた。



「おじさん、今日は本当にありがとうございました!中田の事、よろしくお願いします!」


「任せときなさい。中田くん?は無事家まで届けるよ」



にっこりと穏やかな笑みを向けてくれたおじさんにあたしも頬を緩ませ、笑い返す。


おじさんに任せれば安心だと、おじさんの笑顔を見て思った。





「……中田」

後部座席に視線を移すと、中田は座席とドアに支えられている状態で座っていた。


少しだけ斜めに傾いているがちゃんと顔は見えている。


薄暗くなってきたせいか外よりも暗い車内。


けど、中田の黒い瞳はまるで主張するかのように光を帯びていた。


射るような視線があたしを突き刺す。



今まで何度その瞳と視線を交えてきただろう。

何度その瞳に苛ついてきただろう。


それはきっと、数えきれない程。





──鳳皇と初めて逢ったあの日。


それは中田との出逢いの日でもあった。


あの日から数ヶ月。


中田とは幾度となく顔を合わせた。


逢えば喧嘩。


牙を剥き出し、突っ掛かる。


あたしからすれば中田は鳳皇の敵でしかない。


嫌う理由はそれだけで十分だった。



此処に来るまで、あたしは中田の事が嫌いで嫌いで仕方なかった。


けれど、今は不思議と負の感情が湧いてこない。


それはきっと、中田自身が変わったから。


あの傲慢な態度も、自信に満ち溢れた禍々しい瞳も、今の中田からは微塵も感じられない。


今の中田は、何かから解放されたような、そんな穏やかな雰囲気を纏っている。


そんな中田をあたしはもう敵だとは思わなくなった。