「すみません、コイツが世話になったみたいで」


「いやいや、お世話なんてしてないよ。お嬢ちゃんはウチのお客さんになってくれただけだ」


軽く頭を下げた煌に、おじさんが困ったように眉を下げて優しく微笑む。


「お嬢ちゃん良かったね」


「……え?」


「来る時、この世の終わりみたいな顔をしてたから」


「……ぁ」


「解決して良かった」



何があったのか全く知らない筈なのに、それでも自分の事のように安心してくれたおじさん。



「おじさん、ありがとう」


良い人のタクシーに乗ったな、と思った。


普通なら、こんな潰れた工場に行くと言ったら不審に思って警察に突き出したりするだろう。


けど、おじさんは突き出すどころか逆に心配してくれてた。


とても優しい人。


「お嬢ちゃんの様子から察するに、ウチのタクシーに乗っていくのはお嬢ちゃんじゃなさそうだね」


穏やかな笑みを浮かべたおじさんがあたしから煌、そして十夜達へと視線を滑らせる。



「そうなんです。彼だけ帰る所が違って……」


そう言って目を向けたのはタクシーに乗車する予定の中田。


「だ、大丈夫かい?家じゃなくて病院に行こうか?」


おじさんは中田を見るなりタクシーに駆け寄っていき、後部座席のドアを開けてくれた。


「……いえ、そのまま帰ります」


ぶっきらぼうだけどきちんと敬語を使っている中田に少し驚いた。


普段はきっと目上の人にもタメ口の筈。


けど、今は敬語を使うべきだと分かっているのか、ぎこちなくもきちんと敬語で返事をしていた。