「タクシーがある。お前は早く兄貴の所に帰れ」
「でも……」
「凛音、助けて貰った事には感謝してる」
「………」
「……けど、もういいから。
……これ以上俺を惨めにさせるな」
「……っ」
そう言った中田の瞳には微かな陰り。
その瞳を見ると、出かかった言葉も喉の奥へと引っ込んでしまった。
“これ以上惨めにさせるな”
……そう、だよね。
負けた相手に助けて貰い、その上家まで送って貰うだなんて、あのプライドの高い中田がさせる訳がない。
それに、きっとあたしでも同じ事を言うと思うから。
だから、あたしはそれ以上何も言わなかった。
「分かった。じゃあタクシーが来るまで此処にいてもいい?」
「……あぁ」
「じゃあ、タクシー呼ぶね」
って番号知らないや。
「凛音ちゃん、ちょっと待ってて。今から調べるから」
「ありがとう、壱さん」
携帯を取り出して調べようとする壱さんにお礼を言ったその時。
「あぁーー!!」
“ある事”を思い出した。
「お前、いきなり叫ぶなっていつも言ってんだろ!」
「壱さん!番号調べなくてもいいよ!」
「オイ、無視すんな!」
もう!それどころじゃないっつーの!
大袈裟に両耳を塞いでる煌を無視して壱さんにもういいよ、と手を振る。


