「……もう高いとこない?」
「ないないない。あとはこの坂上がって車道通って行くだけだよ」
ビビりすぎの彼方に溜め息混じりにそう言うと、アレ、と坂を指差した。
「良し、行くか」
坂を見て安心したのか、急にやる気を見せた彼方。
どんだけヘタレなの、と思ったけど、敢えて口には出さなかった。
だってまた拗ねられたら面倒臭いし。
機嫌良く走り出した彼方を先頭に、急斜面を力一杯駆け上がる。
何度か滑り落ちそうになりながらも無事車道に辿り着いたあたし達は一旦そこで休憩。
「……りっちゃん、まさかここ滑り降りた訳?」
今上がってきたばかりの急斜面を見て苦笑混じりに小さく呟く彼方。
その呟きに「もち!」とピースして答えると、「マジかよ。ホント怖い物知らずだなー」と隣から呆れた声が聞こえた。
声の主は陽。
流石の陽もこの坂には疲れたのか、ゼ-ハーと肩で息をしている。
「凛音ちゃん、もうこんな危ない事、しちゃ駄目だからね?」
同じく息切れしている壱さんはそう言うと、流れる汗を手の甲で拭った。
その仕種が妙に艶かしくて、もう生唾も……っと、ヤバイヤバイ。
妄想してる場合じゃないね。早く行かないと。
壱さんに「ごめんね。もう危ない事しないから」と言うと、再び走り出した。


