「なっ……!」
拉、致……?
思いもよらない言葉に目が最大限に見開かれる。
と同時に直ぐ様貴兄へと目を向けた。
視界に映った貴兄はさっきと変わらず視線を逸らしたままで。
あたしが見ている事に気付いてるのにも関わらず、此方を振り向こうとはしない。
貴兄……。
「……っ、なんで拉致したの!?」
貴兄から中田へと視線を戻し、再び鋭い視線を向けた。
許せなかった。
中田の言った事が本当なら、貴兄は鳳皇と争う気なんてなかったんだ。
仲間を拉致られたから……。
だから、貴兄は仲間を取り戻す為に中田に協力した。
それが真実。
「拉致したのは“手を組まないか”と持ち掛ける為だよ」
「………」
「“拉致”は獅鷹総長を呼び出す為にしたまでの事。別に拉致した奴をどうこうするつもりはなかったさ」
そう言った中田は“なぁそうだろ?”とでも言いたげに貴兄へと視線を向けた。
その視線にも貴兄は反応を示さず、視線は床へと向けたままで。
そんな貴兄に中田はククッと肩を揺らし、再び此方へ視線を戻した。
目が合った中田は愉しそうに笑みを零す。
「獅鷹総長には今までの事を知られているからな。普通に呼び出したんじゃ警戒して来てくれないと思ったんだ。だから“拉致”という方法を取った」


