「壱?」
陽が隣に並び、同様に下を見下ろす。
「もし倉庫に出口がなかったら俺がここから降りるよ」
「あ?それは危ねぇだろ」
「陽、ここは工場だ。ロープぐらいある。それを使ったら降りられるよ」
「けど──」
「壱、取り敢えず十夜んとこに戻ってから決めるぞ」
「分かった」
陽の言葉を遮ったのは煌。
煌もまた隣の窓から下を見下ろしていた。
煌は顔を上げると、三人に目配せをして歩き始める。
「煌」
「分かってる」
壱が何を言いたいのか煌には分かっていた。
多分、壱がさっき言っていた事だろう。
壱は本気で二階から降りようとしている。
けど、それについては煌も反対する気はなかった。
煌もまた壱と同じ事を考えていたからだ。
出口が無ければ最終手段はそれしかないと。
チラリと横目で壱の様子を窺う。
前を真っ直ぐ見据えるその表情は真剣そのものだった。
壱は怒っていたのだ。
自ら降りると言い出す程に。
「壱、その怒り次にとっとけ」
「……あぁ、そのつもりだよ」
フッとらしくない笑みを向ける壱に煌は一瞬目を見開いた。
かと思うと、クククと肩を揺らし始める。
久しぶりに怒りを露にさせた壱を目の当たりにしたからだ。
アイツ等も馬鹿だよな。壱を怒らせやがったんだから。
心の中で小さくそう呟く煌。
煌は知っていたのだ。
ある意味、怒らせると一番厄介なのは壱だということを。
「楽しみだな」
煌は先に待っているであろう闘いを思い浮かべ、笑みを零した。
-客観的視点 end-


