Ri.Night Ⅳ


「壱?」


陽が隣に並び、同様に下を見下ろす。



「もし倉庫に出口がなかったら俺がここから降りるよ」


「あ?それは危ねぇだろ」


「陽、ここは工場だ。ロープぐらいある。それを使ったら降りられるよ」


「けど──」


「壱、取り敢えず十夜んとこに戻ってから決めるぞ」


「分かった」



陽の言葉を遮ったのは煌。


煌もまた隣の窓から下を見下ろしていた。


煌は顔を上げると、三人に目配せをして歩き始める。



「煌」


「分かってる」


壱が何を言いたいのか煌には分かっていた。


多分、壱がさっき言っていた事だろう。


壱は本気で二階から降りようとしている。


けど、それについては煌も反対する気はなかった。


煌もまた壱と同じ事を考えていたからだ。


出口が無ければ最終手段はそれしかないと。


チラリと横目で壱の様子を窺う。


前を真っ直ぐ見据えるその表情は真剣そのものだった。


壱は怒っていたのだ。


自ら降りると言い出す程に。





「壱、その怒り次にとっとけ」


「……あぁ、そのつもりだよ」



フッとらしくない笑みを向ける壱に煌は一瞬目を見開いた。


かと思うと、クククと肩を揺らし始める。


久しぶりに怒りを露にさせた壱を目の当たりにしたからだ。



アイツ等も馬鹿だよな。壱を怒らせやがったんだから。


心の中で小さくそう呟く煌。


煌は知っていたのだ。


ある意味、怒らせると一番厄介なのは壱だということを。





「楽しみだな」



煌は先に待っているであろう闘いを思い浮かべ、笑みを零した。




-客観的視点 end-