「中田、ここで待ってて」


十夜の手を引きながら視線を落とし、中田に向けてそう言うと、


「俺も行く」


中田は苦痛に顔を歪めながらも膝を立てて立ち上がろうとした。



「馬鹿!そんな身体で行ける訳ないでしょ!」


そんな中田の肩をポンッと押し、無理矢理その場に留めさせる。



「………」


「そんな顔しても無駄だから」



尻餅をついた中田の恨みがましい目がチクチクと突き刺さる。



……ってこんな事してる場合じゃないのよ!


早く行かなきゃ隣の工場からアイツ等が出てくる。


煌達が捕まえてるかもしれないけど、もしもの時の為に出入口で待ち構えなきゃいけない。


アイツ等は逃がしちゃいけない奴等なんだ。


逃がしたらまた何かしらのトラブルが生じる。


きっと。ううん、絶対。




「中田、取り敢えず行ってくるから大人しくしてて!」


「オイッ!」


「マテッ!!」


「……っ」



しつこく立ち上がろうとする中田にビシッと手のひらを向けると、なんとそれは効果絶大で。


言葉の通り、飼い主に“待て”をされた中田は従順なわんこのようにピタリと動きを止めた。


と言うよりも固まった、と言う方が正しいのかもしれない。



「あたし達が戻って来るまで動いたら駄目だからねっ!」


そう言って十夜の手をグイッと引っ張る。


十夜はと言うと、何故か哀れんだ目で中田を見ていた。



「十夜、早く行こう!」


もう、本当に早く行かなきゃヤバイんだって。


“待て”とか言って遊んでる場合じゃないよ。


いや、遊んでる訳じゃないけど。