「お前は何を考えてる?」
「……何も。ただ凛音を哀しませたくないだけだ」
「………」
「だから言わないで欲しい」
そう言った貴音はゆっくりと振り向き、真っ直ぐ中田を見据えた。
その瞳に宿るのは切に願う強い光。
揺らぎなく、ただ一点、中田の瞳だけを捉えている。
「お前に頼まれるまでもない」
中田もまたその強き光に正面から立ち向かった。
一寸足りとも逸らさないその視線が中田の意思を告げているような気がした。
それが貴音に伝わったのか、張り積めた空気が一瞬にして消え去る。
貴音の口元には微かな笑み。
その笑みは決して馬鹿にしている訳ではないと中田自身も分かっていた。
だから、敢えて何も言わずに次の言葉を待った。
「凛音を哀しませていたのは俺達だ」
再び凛音へと目を向けた貴音はスッと目を細め、眉を引き寄せた。
その横顔は酷く苦しげで。
それでいて哀しくもあった。
……あぁ、自分を責めているんだ。
全員がそう思った。
「俺は謝らない」
だが、それを見ても尚、中田は貴音に追い打ちをかけるかのようにそう言い放った。
「謝られても許す気ねぇよ」
そんな中田の言葉を特に気にする様子もなく、呆れたように頬を緩ませる貴音。
中田はその表情に大きく目を見開いた。


