「……なぁ、十夜。お前、本当に言わないつもりか?」


「……あぁ」


「でも凛音は怪我の事知ってるんだろ?」


「………」




“傷”


それは獅鷹との喧嘩の時に負った傷のこと。


凛音は獅鷹と鳳皇の間にあった事を何も知らない。


けれど、獅鷹が十夜に傷を負わせた事だけは知っている。


迂闊にも凛音に見られてしまった十夜と、凛音が獅鷹総長の妹だとは知らずに教えてしまった煌。



二人は心の奥底で不安を抱えていた。


獅鷹と鳳皇の間にあった事を絶対に凛音には知られてはいけない。


もし知られたら──





「──凛音には上手く言っておく」


「上手くってお前……」


「アイツにはもう哀しい想いをさせたくはない。

だから煌、お前も獅鷹には言うな」


「……分かった」




──また一つ、真実が闇の中へと消えた。






“あの喧嘩”で十夜が怪我をした事は鳳皇の人間以外誰も知らない。




それは、獅鷹総長、貴音でさえも。




 -客観的視点 鳳皇side end-