「って言ってたんですよ、透子さんっ」

 愚痴を言いながら呑む春日を見ながら、透子は思う。

 悪い酒だ……。

 しかし、薫子の部屋の古い畳の上に置かれているのは、春日が持ってきた久保田の一升瓶なので、透子は口を差し挟めない。

「私だって幸せになってみたいのよ、はわかりますけど、なんだってそこで資産家と結婚する必要があったんです!?」

「い、いやいや、私に言われましても―」

 ふいに睨まれ、透子は身を引くように逃げた。

「そ、それはやっぱり、ほら。春日さんのためを思ってのことですよ」

「……全然ためになってませんし」

「そういえば、春日さんって、昔は、僕なんて言わなかったんですね?」

 春日は軽く咳払いして言う。

「そりゃ、僕が今は、周りの人間と距離を取ってるからです」

 あ、そうなんだ、と透子はちょっと淋しい気持ちになる。