夕暮れ、玄関先で坂口の母が叫んだ。
「舞、帰るわよっ」
「はっ、はいっ」
慌てて舞は靴を履く。
介弥の部屋を出てから、舞は誰の顔も見れなかった。
楽しげに談笑する生みの親と育ての親たち。
だけど、舞は彼らと一言も口をきくことは出来なかった。
振り返ると、介弥は家族から少し離れた柱の陰から手を振っていた。
介弥……。
雨は止んでいた。
開いた扉から山の風が吹きつけて、舞は一瞬、目を閉じた。
そうして、一瞬でも目を閉じたことに、不安を覚えたように、介弥を振り返る。
介弥は変わらず、そこで笑って手を振っていた。
その安心感に、舞は涙が出そうになった。



