カラカラと筆を洗う音が響く。

 放課後の美術室には夕暮れの光が差し込み、長いキャンバスの影を落としていた。

 その横に、天然の、長いウェーブのついた自分の髪が同じ影として映っていた。

 風に揺れる一本一本まで、くっきりと見える。

 昨日からテスト週間なので部活は休みだ。
 野球部やラグビー部の掛け声も聞こえない。

 それでも、舞は絵を描きたかった。

 こうしてキャンバスに色を乗せていると、心が落ち着く。

 この瞬間だけは、その絵のことだけ、考えていてもいいはずだから―

 舞は筆を置き、窓の外を見上げた。

 黄金色に染まった秋の高い空に、白い雲が薄く細く棚引いている。

 雨……降りそうもないな。

 雨は好き。

 あのときのあの人の匂いを思い出すから。

 雨は嫌い。

 あのときのヒステリックなお母さんの声を思い出すから。

 窓のすぐ側の、大きな銀杏の枝の側を、赤とんぼが二匹、絡み合いながら飛んでいった。