今にも泣き出しそうな空だった。

 空気は湿気っているのに、なんとなく乾く喉に、厭な感じがしながら、舞は水でも飲もうかと、給水器のある図書室前の渡り廊下に向かって歩いていた。

 そのとき、舞の横を何処かで見たことのある人影が、駆け抜けた。

 誰だっけ?

 特に印象には残らない顔だが、度々、見た覚えがある。

「ちょっとちょっと!」

 彼女は渡り廊下の反対側からやってきた女生徒たちに飛びつかんばかりに、声をかけた。

 あ! あの集団は!

 それは、春日の親衛隊まがいの連中だった。

 セーラーの襟を宙に浮かせて、彼女は仲間に報告する。

 その様子は、まるで、女王のもとに敵の進軍を知らせる働き蜂のようだった。

「聞いた!? 春日くんのお父さんが倒れたんだって!
 それで、春日くん、早退するんだってよ。

 ねえ、何か言った方がいいかなあ」

「え、でも、今迂闊なこと言って、ほんとに大事だったら、どうする?」

「だけどさ、こういうときになんか言っといた方が、後で印象に残ると思わない?

 ……ちょっとなによ?」

 女生徒の一人が、いきなり腕を掴んだ誰かに気づいて、キツイ目を向け、振り返る。

 だが、その手の主が舞だと気づいて、彼女は脅えたようにその身を引いた。