ここにとばされて(?)3日目になっていた。
私は皇子のそばに置かれることになっていた。
ことば通り、いつもすぐ近くに皇子の目の届くところに。
皇子の公務の時以外は。

「ディアナ、用意されていた服は合わなかったかい?」
フランツ皇子が優しいまなざしを向けてくれている。
「え・・と、このほうが動きやすくて。ああいった服は着たことがなかったから・・」

フランツ皇子はとてもよくしてくれる。『救い』に来ているはずなのに今のところ、まだ何の役にも立っていない。むしろ、この部屋で守られている。
私はこの国のことは全くわからないし、首飾り以外は何一つ持っていなかった。

この3日というもの、皇子の部屋とすぐ隣に用意された部屋以外は行ってはいけないと言われている。どこから誰が狙っているかわからないから、と。

とりあえずまだ何も起こっていないけれど・・。

私にできることは、山で食べられる食材を見つけたり、薬草を探したり、そういうことは、ここでは必要がないみたいだった。

フランツは皇子様で、なんでも周りの人がしてくれる。私のそういう特技には、残念だけど出番はないよう。

どういうことが『救い』になるのかな・・。私は所在なく、皇子についてまわらせてもらっていた。


「それにしても、それでは少年のようだよ。」
皇子の眉根が困ったというように寄せられる。
「肌もきれいだし、着飾ればどこかの令嬢のように見えるだろうに。」

皇子の視線がディアナを捕らえる。身体が熱くなってきそうだった。
ディアナはぱっとすわっていた席をたった。

「ま、また、そのうちに。。」
くすり、とフランツが微笑した。

「皇子様、あまりディアナ様をいじめないでくださいませ。
私もディアナ様にすてきなドレスをお召いただけるよう毎日お話していますのに、ますますドレスから遠ざかってしまわれますわ。」
「マレーさんまで!」

皇子が私の滞在中不便がないように、マレーという女性をそばに置いてくれた。雰囲気もまるで私のお母さんのようで、私はマレーさんとすぐに打ち解けた。

マレーさんとディアナのやり取りをフランツはほほ笑みを浮かべ見守っている。



この国のことがさっぱりわからない私に、優しく接してくれるフランツ皇子。
皇子の指示だからかもしれないけれど、優しく接してくれるまるでお母さんのようなマレーさん。
お母さん、村のみんなのことを思い出して胸がきゅうっとなる。
今頃、みんなどうしているだろう・・・


「そのうち着てくれるのを楽しみにしているよ。」
ぽんぽん、と頭をなでる大きな掌。

「さて、私はこれから公務があるから、午後はアイザックと一緒にいるように。
くれぐれも、ひとりでいることのないようにね。」
フランツはそういうと部屋を出ていった。


≪違う違う、今は皇子を助けにきてるんだから。元気をださないと!≫
ディアナはぎゅっと目を閉じた。

フランツの甘い香りが部屋に残っている。
その香りを吸うだけで、今はこんなにも安心することができる自分がいるのが不思議だった。

フランツは最初から疑うことなく私を受け入れてそばにいてくれている。そのまなざしからそう感じる。

どうしてだろう?
伝説の救いも悪くない、都合がいい、みたいなことを言ってたけど、どうして疑わないでおいてくれたのだろう?

あるいは、本当はちゃんと疑いもして、調べた結果、信じてくれているのかな・・?

・・どっちでもいいっ。

優しく微笑んでくれる。
休める場所を用意してくれて、あたたかく保護してくれる。

今の私には十分すぎるほど有り難い。
こうして保護してくれている皇子のために私に何かできることがあるのであれば、私はそれをしたい。

うううん、私がここへ飛んできたのには必ず意味があるはす。
でなければ、私の証明ができない、、ような気がする。

その役目を果たしたい。


昔の約束がどうだったとか、はっきりわからないけれど。
呼ばれたからには・・

彼の『救い』になれるのであれば・・

役に立ちたい。



「ディアナ様、そんなに怖い顔をしているとまた皇子に眉間をつかれますよ。」
そういって私の眉間に指をつん、とする。

「アイザック様!」
「私に様なんてつける必要はないですよ、ディアナ様。」

「そんな、私だって様なんて呼ばれる者ではなくて、、」
「いいえ、今あなたは皇子様のお客様としてここに居らしているのです。丁寧にお仕えしなくては。どうぞ、私への”様”は外してください。」
甘いマスクがにこりと笑顔を見せた。

「また考え事をしていたのですか?」
は、、はい、、。こくり、とディアナは頷いた。

「安心なさってください。」
アイザックが声を小さくする。「今のところ、ブリミエル側にも何も不穏な動きはないようです。」

「あまり深刻な顔ばかりしていると、笑顔が戻らなくなってしまいますよ。
何かの時には、私もついています、ましてや誰よりも心強いフランツ皇子がそばについていらっしゃるのです。
ほら、気を楽にして。笑ってください。」

笑顔をつくろうとするが、それがわざとらしすぎて、アイザックが笑う。
「ぷ、、」
口元を押さえて笑うアイザックにつられ、ディアナからも笑いが漏れた。

「ほら、あなたは笑っている方がいい。きっと大丈夫ですよ。」
さらっとそう言ってウィンクをしてみせる。アイザックの和ませようとしてくれる気持ちがあたたかく感じられた。

「アイザック様もマレーさんも、優しくしてくださるのですね。」
「私もマレーも、ウェルスターも、みな皇子を心からお慕いしていますからね。
その皇子が大切に守られる方ですから。私たちも同じようにしているのです。」
にこり、と笑顔をみせた。

フランツ皇子は周りの人から愛されて、とても信頼されている皇子なんだなあ・・。

「私も、ほんの少しですが一緒にいられて、アイザック様の言われることがわかる気がします。
私も何かの際には助けになりたいです。なんの力になれるのか、わからないけれど。。そう思います。」


ディアナはアイザックとお茶の時間を楽しんだ。