どうしてだろう、私はこのディアナからちょっとも目が離せないでいる。
微笑を見せる私に、ウェルスターもアイザックも驚きを隠せないでいる。

私もこんな私自身に驚きだが、嫌な気はしていない、むしろこうしていたかったような自分がいる。さらなる驚きだ。



「どうか・・大切なものだから・・。」
ディアナが首筋から青い玉のついた紐を動くほうの手でなんとか外し、差し出す。

じっと目を合わせた。
揺れる眼差し。

≪なんなんだ、この感覚は・・。≫
目の前の不安そうな少女は・・
この胸に抱きしめて安心させてやりたいと思わせる。


そっとフランツは差し出されたディアナの両手にその手を重ねた。
「大切に預かっておくよ。」

私の心が音を立てるようだった。
好意があるというのだろうか?



ディアナの左肩に手を添え、立ち上がらせる。
「まずは傷の手当を。それから着替えもしてもらいなさい。
その姿では少し寒いだろう。」
そっとその小さな身体を支えるようにそばに立つ。

「フランツ皇子、私のほうで傷の手当と着るものの手配を致しましょう。」
アイザックに少女を任せようとした時だった。

大勢の足音と鎧のかち合う音が近づいてくるのが聞こえてきた。
ウェルスターがさっと扉に向き直る。

ウェルスターの手は長剣の柄に添えられている。アイザックも身構えている。
私はディアナを背に隠すように招き、扉に向き直った。

「ウェルスター卿!フランツ皇子様はこちらにおいでか?」
「ブリミエル様とお見受けいたします。このような夜更け、どのようなご用件でしょうか?」
ウェルスターが扉を開けずに応える。

「ウェルスター卿、宰相レデオン卿が倒れられたこと、ご存じか?!
宰相が倒れられた際、フランツ皇子様とお二人でいらっしゃったと聞いております。ぜひその時の状況をお伺いしたくこちらに伺っております。フランツ皇子様をこちらへ!」

私の心に嫌悪の念が広がった。


「ブリミエル卿、皇子がレデオン卿と二人でいらしたからどうだというのだ?
レデオン卿が突然吐血されたのとは関係がないであろう?」
「レデオン卿の吐血には毒を使用した形跡が見られるそうにございます。
さすればその場にいらしたとしたら・・。」

「ブリミエル卿!何をおっしゃろうというのか?!」
「いいえ、いいえ、私は何も。私はただ、ご状況をぜひお伺いしたいと参っているだけでございます。」


「おのれ、ブリミエルっ・・!皇子、今回の件はブリミエルが皇子を陥れようとわざと起こしたのでは!?」
「アイザック、証拠のないことを軽々しく口にするなっ。」
ウェルスターがアイザックを制した。
彼の瞳にもアイザック同様怒りが燃えていた。

私はディアナに向き直った。
「ディアナ、きみはさっき私の前で男が倒れるのを確かに見ていたね?
そして、男が倒れる寸前のことも、何か見たんだろうね?だから悲鳴をあげた。どうだい?」
私には証拠のない確信があった。
ディアナの顔色が蒼白になり、彼女はこくん、と頷いた。

ディアナをぐっと自分の胸に引き寄せた。
腕が、胸が、彼女の温かさを知っているようだった。

「ディアナ、きみはきっと私の女神に違いない。必ずきみを守ろう。真実を証明するために、力を貸しておくれ。」

『今度こそ、きみを守る!』どこからかそう声が聞こえた気がした。また私の声音だった。

書類棚の布に目がついた。
それを引き出すと、ディアナの頭からすっぽりと被せた。騎士団の純白のマントだった。

騎士団の純白のマントで覆われたディアナは混乱と不安の入り混じった表情をしている。
自然と、ぐっとディアナを囲む腕に力が込もった。

今度こそ、傷つけない。
今度こそ、守る。。
そんな言葉が繰り返し私に呪文のように響いてくる。


「ディアナ、私のそばにいておくれ。」
それは私が言った言葉なのか、私の口が勝手に口走っていることなのか、はっきりしない感覚のなかでディアナの身体を抱きしめていた。

『今度こそ・・』


ふ・・・・っと身体が宙に浮くような感覚があって、
私は真っ暗な空間に居た・・・